古くから言われているリンゴの意味は、「生命・愛・感情・豊かな生産力」などさまざまです。
本質は、カオスの表現だと思います。
根拠は、常に対象物として出てくることですね。カオス・母性・英雄の対象といった感じで、リンゴが出てきます。
よって、受け身的な意味合いが強いので、リンゴ自体はつかみ所がない感じがありますね。
今回はリンゴの象徴的な意味について、解説していきます。
リンゴはカオスの象徴的な表現

リンゴ自体を理解することは難しいので、リンゴを取り巻く「動き」を見てみます。
- 大地ガイヤが持っている
- よく真っぷたつに割られる
- 王様の城の庭に生えている
ガイヤが持っているリンゴ
ギリシア神話は、影響力が大きいので、おさえておきたいところです。
ギリシア神話では、パリスのリンゴなどいろんなリンゴは出てきますが、最も重要なのが、大地母神ガイヤが持っているリンゴです。
ガイヤは、ほとんどカオスに近い存在であり、母親の代表的なイメージでもあります。
大地の母で、世界のはじまりに近い存在がリンゴを持っていることは意味あることだと思います。
母親がリンゴを持っているのは、白雪姫も同じですね。母性のリンゴとも言えるのだと思います。
また、このリンゴは、息子であるゼウスの結婚式に祝福のしるしとして贈られることになります。
ここで、結婚も出てきますね。とくにストーリーがあるわけではないのですが、この象徴性は他の話にも大きく影響を及ぼしていますね。
このガイヤのリンゴでは、カオスの近くにあり、母親が持っていて、結婚に関係していることが分かります。
リンゴは、よく真っぷたつに割られる

昔話に出てくるリンゴは、よく真っぷたつに割られます。
2つに割るというのは、リンゴにかかわらず、昔話ではよく出てくるモチーフです。
天と地、昼と夜に、カオスから分かれていくのと同じ意味になります。
これは、わけが分からないから、2つに分けるということですね。
分けて→分かるということです。
私たちは、分けないと、分からないんですね。
その分ける対象に、リンゴがよく使われます。
ですから、イメージ的に、リンゴは、現実化する前のポテンシャルみたいなものでもあるのでしょう。
割ったら、意識化する、おさまりが付くというような感じだと思います。
形を変えれば、英雄物語の竜を倒すようなものにもなるし、お姫様の病を治すリンゴの物語がありますが、お姫様の救出にもなるので英雄的になってきます。
病を治すリンゴの話は、こちらの記事で白雪姫のリンゴと比較しています。

とにかく、リンゴと真っぷたつは、表裏一体的なものですね。
桃太郎なども、桃が真っぷたつに割れますが、同じものだと思います。
王様の支配力の対象としてのリンゴ

王様の庭にリンゴの木が生えている話があります。
これは、王様の管理下にあるという意味で、その対象がリンゴの木になっています。
先ほどは、2つに割られる対象だったのが、今度は国を治める対象という感じですね。
「黄金の鳥」などは、王様の城の庭にリンゴの木が生えていて、毎日しっかり数えているのですが、ある日1つなくなっていたというのが話の冒頭になります。
計算に狂いが生じているというのは、この王様の体制に変革の時期が来ていることを表現しています。
内容的にもそのように進んでいくのですが、王様が毎日数をチェックして、ちょっとした変化すら許さないというのは、王様の象徴的な意味でもある父性的な態度の表れですね。
その対象がリンゴになっている感じです。
歴史上の王様のリンゴ【帝国宝珠(Reichsapfel)】

歴史から見ても、王様のリンゴは存在しています。
神聖ローマ帝国の皇帝に贈られる贈呈品として、帝国宝珠(Reichsapfel)というのが、帝国のリンゴと言われているようです。
「球」が世界を意味していて、「十字架」がキリスト教。
キリスト教が世界を支配するという意味のようです。
ここでも、支配力の対象としてのリンゴ(球体)が使われています。
ただ、このリンゴは、正式なリンゴではなく通称ですね。
「手なし娘」の堕落した父性

「黄金の鳥」や、キリスト教の支配は、王様ゆえに立派な父性ですが、この父性が、悪くなると「手なし娘」のような話になるのかなと思います。
父性的な行為を具体的に並べると、秩序を守ったり、計画的に物事を進めたりと、いろいろある中で、約束を守るというのも重要なものの1つですね。
グリム童話「手なし娘」の父親も、もちまえの父性で、約束を守るには守るのですが、「悪魔」との約束を守ってしまうため、この父性は悪い影響をもたらします。
話の中では、真っぷたつにするのはリンゴではなく、娘の腕になってしまいます。
この「手なし娘」の話などは、現実でもありそうですね。
自分に都合のいい善悪を真っぷたつに分けて、身近な人に腕力で訴えているような人。父親的な存在。
そんな人の影響を受けると、子供は腕を切られてしまいます。
手がなくなる象徴的な意味は、おそらく外界とのコミュニケーションが難しくなるということだと思います。
手なし娘の結末は、結婚でのハッピーエンドなので、そんなところからでも立ち上がっていきますね。「手なし」からの克服のプロセスが描かれています。
まとめ:リンゴとカオスと真っぷたつ

こんな感じで、リンゴは基本的にカオスを意味するのだと思います。
どちらかと言えば、ロゴスの対象と言った方がいいのかもしれません。
つまり、カオスとロゴスの関係ですね。
それがリンゴと「真っぷたつ」だったり、リンゴと「王様の支配」だったりしています。
とにかく、大前提としてリンゴというのは、わけの分からないものです。
世俗の空間では、成立できないようなものだと思います。
それを、2つに割ることによって、なんとか手に負えるものになっていくといった感じですかね。
余談:小人も真っぷたつ

カオスとロゴスの関係や真っぷたつのモチーフも出てきたので、ついでに小人の話も似ているので少しだけ。
小人と、「人間の意識」の関係が、似ていますね。
人間が、小人を名付けて理解すること、意識化するということを小人は嫌うわけです。
小人の属性からして、意識として成立する以前に存在する人たちなので、誰かに分かられてしまうと、小人は小人でいられなくなってしまいます。
グリム童話『ルンペルシュティルツヒェン』は、名前を言い当てられたあと、自らの身体を真っぷたつに引き裂いてしまいます。
ここでも、真っぷたつが出てきますが、この意味は、「人間に分かられた」ということですね。小人は存在意義を失ったのです。
小人については「種類・特徴・意味」を簡単にまとめた小人の基礎的な記事があります。
愛のリンゴ
リンゴの話で、どうしても出てくるのが、結婚のハッピーエンドですね。たぶん、恋愛系の話ですと、すべてが結婚に至ると思います。
もとは、カオスだと思いますが、形を変えてエロスなどに変容するのでしょう。
そこで、恋愛となるとどうしても話しておかなければならない話があります。
強烈なイメージで、とても影響力のある話だと思います。
イメージ的には、「愛のリンゴ」と同じようなものではないかと思うんですが、この有名な話は、プラトンの「饗宴」にあります。
太古の人間アンドロギュノス

太古の人間にアンドロギュノス(男女)というのがあった。
男と女が合わさって出来ていた。
背中も、脇腹もまるくできていて、身体全体は球体だった。
手が4本、脚が4本あり、顔が2つあった。
この人間は、恐ろしく力が強く、神々に反抗したため、ゼウスをはじめとする神々は困り果てていた。
そこで、一計を案じ、ゼウスはこの人間アンドロギュノスを真っぷたつに分断することにした。
数が増えることで神々へのお供え物は増えるし、人間も分断された傷を見ることで謙虚になるだろうと考えたからだ。
すごく分かりやすい動画が、YouTubeにあったのでどうぞ。(1分39秒)
こういう話があったからこそ、人間だれもが、むかし自分の一部だった半身を恋しがるという話になります。
男と女が求め合うということですね。
恋愛感情の起源話みたいな感じでしょうかね。
このアンドロギュノスが、直接リンゴと関係あるかは不明ですが、球体だったというのは、興味深いところです。また、真っぷたつのモチーフもありますね。
おそらく、リンゴが出てくる話、結婚に至る昔話の根底には、この話があると思います。
今回は以上です。
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