基礎知識

【グリム童話】狩人の象徴的な意味【問題を発見する人格】

森に人

「狩人」専門記事です。

昔話の「狩人」の意味についての解説をしています。

  • 意識しがたい人たち
  • 森と里を行き来する人たち
  • 無意識に近いところに住んでいる人たち
という狩人の捉え方をしています。

すごい妙な人たちです。

なお、白雪姫の狩人についてはこちらの記事で解説しています。
【白雪姫】狩人全セリフ&裏切り方を徹底比較【ディズニーとグリム童話】

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実在した歴史上の狩人

いちおう、歴史上の狩人の特徴です。

  • 獣を狩る職業
  • 男性の職業
  • 狩猟では集団で行うのが普通
  • 歴史的に衰退して行く
  • 隠語を多用する

衰退の理由は、農業や牧畜が盛んになって、獣の家畜化や農業の発達によって狩りの必要がなくなったからということですね。

隠語は、信仰の意味と仲間意識を強めるためのようです。ふつうの社会とは別の独特な文化を形成していたみたいです。

歴史上の狩人でも、ちょっと怪しさがありますね。

昔話に登場する「狩人」の象徴的な意味

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昔話の登場人物は、歴史上の人物をそのまま描いているわけではありません。

昔話は口伝えの文学ですから、話し手や作り手の心に蓄積されたものが、昔話の世界に投影されることになります。

つまり、昔の人たちが、生活の中で体験した狩人的なものが昔話の作品に投げ出されている感じですね。

ですから、現実の狩人とはちょっと違ってきますが、かえって本質的なものが凝縮されているという見方をもった人は多いです。

『赤ずきん』に象徴される父親的・守護神的な狩人

荒々しい自然から、守ってくれる狩人です。

心理的には荒れた感情から救ってくれる保護者

昔話の狩人は、主人公に親切な動物は殺さず、荒々しく残忍な野獣だけを屈服させ、意のままに動かす。

もっと深いレベルでは、狩人は、人間の動物的で反社会的で、荒々しい傾向の征服を表している。
(中略)
荒々しい情動が生む危険から救ってくれる力を持っているし、事実救ってくれる、非常に強力な保護者なのだ。

ブルーノ・ベッテルハイム(1978)『昔話の魔力』(波多野完治・乾侑美子訳) 創元社.p.270
要約しますと、
  1. 狩人は、主人公の味方
  2. どんな人間でも、深層心理には動物的・反社会的な側面がある
  3. 荒々しい情動から狩人は守ってくれる

狩人のおかげで、被害を受けないですんでいるという解釈です。

赤ずきんの狩人の原初的な男らしさ

たとえば、「赤ずきん」の狩人は、守ってくれる狩人です。オオカミのおなかの中に赤ずきんがのみ込まれたところで登場して、赤ずきんやお婆さんを救出してくれます。

やはり、赤ずきんがオオカミにのみ込まれるというのは、恐ろしい自然・本能・荒々しい情動に襲われるという意味でしょう。

まさに救世主的なイメージです。

強い父親、守護神的な印象、狩人の代表的なイメージでしょう。

自然との共存共栄をはかる狩人

狩人は、自然が恐ろしいだけではなく、「恵み」も、もたらすことも知っています。

猟師というものは、森のことに精通し、森の動物にねらわれたり、ねらったりして関わり合い、また動物から人間を守ることも知っており、その上自然とも関わることができ、自然のリズムを知っているにちがいないし、自然を守るために存在している。

ヴェレーナ・カースト『おとぎ話にみる家族の深層』p.153

自然との共存共栄をはかっている存在、それが狩人ということです。

王様との主従関係

それと、昔話に出てくる狩人は、だいたい命令される立場です。王様やお妃に逆らえません。

これは、自然と共に生活していることに関係がありそうですね。

人里離れて自然と触れ合うことで、感性や直感は発達しますが、知性の発達からは離れがちになります。物事を言語化する能力は都会の人たちと比べると低くなってしまいます。

知的体系が統合された都会の人たちにはかなわないでしょう。

歴史的に実在した狩人も、同じ感じがありますね。

内なる「動物」との交流

人間は、だれもが人間にふさわしく自我意識をもち、意識的に生きています。

もう、 決して、森の人にもどることはできません。しかし、だからこそ、狩人のイメージが必要なのです。

それのおかげで、人間は自分の「内なる動物」と交流でき、その動物エネルギーに恵まれ元気でいられるのです。

森省二『物語がこころを癒す』

現代人は、いい意味でも悪い意味でも意識がまさってしまって、もう昔の人のような本能的に生きることはできなくなってしまいました。だからこそ狩人のイメージが必要だということですね。

内なる動物的エネルギーをコントロールする狩人

自分の中の「内なる動物」や「動物エネルギー」と交流をさせている象徴的な人格が、狩人ですので、それを復権させることが大切だということです。

内なる動物・内なる狩人と現代人

ふつうに社会生活を頑張ろうと思えば、自然や本能なんてものは目をそむけがちになってしまいます。

現代人の心の中の狩人は機能していない人も多いかと思います。

「自然」と交流する狩人的なシンボルが、心の中でしっかり仕事をしてくれれば、意識と無意識が望ましい交流をして、悩ましい不安なども軽減されるでしょう。

そうすれば本能からの耐えがたい力にも、うまく取りなしてくれるでしょうが、うまくいかないのは、どうも現代人だけではないようで、そんな状況が昔話に描かれています。「自然」や「本能」との交流が途絶えてしまった昔話です。

グリム童話『鉄のハンス』はそんな話です。

狩人が機能できない物語『鉄のハンス』

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グリム童話『鉄のハンス』は、次のような始まります。

  1. 王様のお城の近くに大きな森があって、そこには動物がたくさんいる
  2. 狩人を森へ派遣したが、行ったきり誰ひとり帰ってこない
  3. それから、誰ひとり森に入るものはいなくなった

これが、グリム童話『鉄のハンス』の冒頭です。

森にのみ込まれる狩人たち

お城の近くに森があるのは、自然の猛威が近くにあるということですね。

狩人が戻ってこないのは、森にのみ込まれたのでしょう。

自然の猛威、荒々しい情動が狩人の力では、もはや歯が立たないことを意味しています。

最悪、森が繁茂して王様のいる城をぜんぶ覆ってしまって、王様ともどものみ込まれたら大変です。これは、人間の意識をのっとられるようなものですから。

時には「怖いもの知らず」も必要

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ですが、『鉄のハンス』は、そうはなりません。

では、この状態からどのように克服していくのか?というと、突破口を見つけて出してくれるのが、これまた同じ「狩人」なんですが、この狩人だけは森から生還できることになります。

つまり、この狩人だけは、自然の力に屈することなく対応できたということです。

森にのみ込まれていった通常の狩人と、なにが異なっていたのか?なんですが、それが「怖いものなし」という性質なんです。

鉄のハンス

王様「あの森は物騒だ。お前もほかの者と同じように二度と出て来れなくはならないか?」

狩人は返事をした。

狩人「旦那様。私は万一の場合を覚悟の上でやってみます。こわいものなどなにもございませぬ

といったわけで、この狩人は犬を連れて森へ入っていった。

怖いもの知らず」というのは昔話には、おなじみの文句です。

怖さ、畏怖というのは、意識を守るのに重要な要素ですが、ときにムダに怖がっていることもあって、無意識からの「恵み」を受け取る障壁になっているケースがあります。

森(本能、無意識)との交流が途絶えたとき、どうすればいいのか? 怖がらないことというのも一つの方法です。

これは単純ですが、大事なことでしょう。

問題解決の糸口を見つけるくらいの役割?

鉄のハンス』に話を戻すと、怖いものなしの狩人は森の中で、深い沼に行き当たります。

狩人部分のあらすじ

すると、その中から裸の腕がぬっと伸びてきて、一緒に連れてきた犬は引きずり込まれてしまいます。

ビックリした狩人は男三人連れてきて、手桶で沼の水を抜くと、沼の底には得体の知れない生き物が横たわっていました。

その生き物の描写ですが、
「からだは鉄のさびたみたいに茶色で、髪の毛が顔から膝の辺りまで垂れ下がっている山男」
だったといいます。

狩人たちは、この男を縄で縛って城の敷地内まで連れていくという仕事をやり遂げました。

で、重要なのは、この狩人の仕事はここまでということです。

狩人は意識的にはとらえがたい?

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狩人はいつも決定的な仕事はしない

鉄のハンス』の物語は、ゆくゆくはこの不気味な「山男」を「城側」が、しっかりと受け入れること、それが物語全体の目標になるのが想像できます。

ですが、現状ではまったく見込みはありません。

城内の人々はこの「山男」を見て絶句していますし、王様は鉄の檻に閉じ込めて中庭に置いておくくらいしかできませんし、森へは自由に行けることにはなりましたが、まだまだ解決には至りません。

『鉄のハンス』は、まだまだ話の全体の二割ほどで、この後もずっと続きますが、狩人の仕事はこれで終わりです。

二度と出てきません。

『白雪姫』のときと同じですね。

女王の命令に背いて、白雪姫を森に逃がしたのは勇敢な行動だったとはいえ、成し遂げた仕事はそれくらいで、再び女王の迫害ははじまりますから、抜本的な解決をしたわけではありません。

鉄のハンス』でも、狩人の仕事は勇敢ではありましたが、これくらいの仕事しかできないということでもあります。

「山男」という問題の糸口をつかむくらいで、全体の解決を一気にするというような働きをするわけではないんですよね。

これが、狩人の特徴なんです。

方向性が一つに定まらない狩人

森

鉄のハンス』でも、森にのみ込まれていった狩人と、山男を捕まえた怖いもの知らずの狩人は、セットで見るべきでしょう。

解決の糸口を発見する登場人物をわざわざ同じ職業の狩人を使うことは意味のあることでしょう。

いっしょにして見た方がいいと思います。

そうしますと、狩人が複数いれば、全員が思い思いの方向を向いて、てんでんばらばらになってしまいます。

森にのみ込まれる狩人もいれば、「山男」をほじくり返す狩人も出てきます。

逆に、それを強引にでもひとつの人格にまとめ上げようとして出来上がったのが狩人でしょうね。

すると、どうなるかといえば、どこかボヤッとするんですよ。

グリム童話の狩人が、そうでしょ。なんか釈然としない人格なんですよ。

白雪姫の狩人も、心の中はジレンマで引き裂かれてますよね。

偽り内臓を女王へ持っていく話では、心は揺れ動きますので、心の中は真っぷたつです。

「女王の命令にしたがう狩人」と「白雪姫を森へ逃がす狩人」。

てんでんばらばらなんです。

つまり、ひとりの人格として認めることがむずかしくなりますね。

狩人は、意識と無意識の間の地続きになっている部分と言いますか、そういう所に存在する象徴ですね。

ですから、はっきりはしません。

意識に取り込みづらい人格で、私たちの心の中の狩人がいるなら、たぶん低い評価を与えているような気がします。

ですが、昔話に見られるくらいの、問題解決の糸口くらいの発見をもたらしてくれる存在なので、重要な存在なのではと思います。

狩人は、以上にしたいと思います。

まとめ:心の狩人で本能との調和を!

挿し絵 洞窟

狩人は、本能と密接に関わっているので、心の中の重要度は高まっていると思います。

現代人は、本能や自然から離れてしまったために様々な問題が出てきていると言っても過言ではないでしょう。

無意識からの圧力が大きすぎれば防衛してくれますし、意識に変革が迫られているときは無意識から必要なエネルギーを届けてくれます。狩人の仕事は自然と関わらなくなった現代人にはむずかしい仕事ですし、一見、狩人の人格には低い価値を与えてしまいそうですが、昔話における狩人の微妙な働きを知っておくだけでも有益だと思いますよ。

今回は以上です。

【白雪姫】狩人全セリフ&裏切り方を徹底比較【ディズニーとグリム童話】

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