
なぜ継母は、いつも悪役なんだろう?
こんな疑問に答えています。
結論は、子供が母親に対して疑念を抱くこと。
「本当に自分のお母さんなの?」と思う心象イメージにあります。
「お母さん」と呼びたくない時、その子供の母親像は「継母」になっているんですね。
詳しくは、後半の「心の中の継母」から、解説しています。
- 「継母=悪者」にしたのはグリム兄弟説
- 白雪姫民話「実の母親」vs「継母」どっちが多い一覧表
- 誰もが遭遇する心の「継母」
という流れでお伝えします。
「継母」を悪者にしたのはグリム兄弟説

グリム童話『白雪姫』の「継母」は、本当は「実の母親」だった!
というのは、けっこう知られていると思います。
『白雪姫』と『ヘンゼルとグレーテル』はもともと「実の母親」だったのですが、読者から寄せられた批判によって継母に変更したと言われています。
「実の母親」→「継母」への変更が適切だったかどうかは、わかりませんが、いずれにせよグリム童話の中では「悪」の役割は「実の母親」ではなく「継母」が背負わされることになりました。
この変更に対して、厳しい目を向ける人たちがいます。
「母親」から「継母」に変更したグリム兄弟への批判

これらの継母たちが、似たようなからくりで作り上げられた可能性はある。
(中略)
このようなまったく不当なすり替えの被害者は、現実の(たいていはたいへん優しい)継母たちだったし、現在でもそうだ。
- 残酷な母親がいてもらっては困る
- 母親という完ぺきな地位を中傷するわけにはいかない
- 声望高い母親の名誉を傷つけるわけにはいかない
つまり、グリム兄弟は世間体や社会通念に屈した形で、「継母」に変更してしまったと嘆いています。
マレの批判の真意は「母親にしておくべきだった」という訴えです。
継母=悪は、グリム兄弟が広めた?

確かに、グリム童話は、一説には聖書の次に売れた書物と言われるように、世界中でよく読まれた童話集なので、世界に広めたという意味では、グリム兄弟が「継母」=「悪」のイメージを付けてしまった張本人と言えるかもしれません。
昔から存在する継母話
ですが、グリム兄弟が、はじめて「継母」=「悪」の図式をつくったわけではないですね。
『シンデレラ』に代表されるような継母話は、昔から存在しています。
なので、グリム兄弟は、昔の伝統にならって「継母」に変更したとも考えられるわけです。
『シンデレラ』の最も古い話と言われているのが中国の『葉限』。この『葉限』は日本の南方熊楠が発見したことでも有名ですが、驚きなのは、時代は古く9世紀ということです。
グリム童話が19世紀ですから比較になりませんね。
また、ちなみになんですが、日本の古い継母話はといいますと、『落窪物語』で、これも、10世紀ですから古いですね。
ですから、昔から継母話は存在しています。
グリム兄弟が、世間に屈して白雪姫の母親を継母に変えたかは、タイミングはそうであっても、じっさいは分からないところですね。
白雪姫も、グリム兄弟以前のものに「継母」が存在していた

ところで、じつは、『白雪姫』の古い類話でも「継母」が存在するようです。
『白雪姫』の話型でも「継母」に悪の背負わせたのは、グリム兄弟が初めてではないとマックス・リューティは言っています。しかも、もともと「継母」の方が多いとも言っていますね。
一覧表:『白雪姫』の類話「母親」vs「継母」どっちが多い?
ひとまず、ここで『白雪姫』の類話を見てみましょう。
現在に伝わっている『白雪姫』の類話が「実の母親」なのか「継母」なのか調べてみました。
国 | タイトル | 迫害者 |
---|---|---|
アイスランド | ヴィルフィンナ | 継母 |
アイルランド | 木の枝 | 継母 |
アイルランド | アイルランドの輝く星 | 継母 |
イタリア | マリア | 継母 |
スイス | まま娘 | 継母 |
スコットランド | 炎の枝 | 継母 |
スペイン | 娘と盗賊 | 継母 |
スペイン | 美しい継母 | 継母 |
チリ | ブランカ・ローサ | 継母 |
ドイツ | リヒルデ | 継母 |
ポーランド | 頭の中の針 | 継母 |
ロシア | オレチュカ | 継母 |
アイルランド | 試練の話 | 姉二人 |
イタリア | 美しいアンナ | 姉二人 |
イタリア | マルゼッタ | 姉二人 |
イタリア | ジーリコッコラ | 姉二人 |
オーストリア | 三人姉妹 | 姉二人 |
ギリシア | ミュルシーナ | 姉二人 |
スコットランド | 試練を探しに | 姉二人 |
イタリア | 奴隷娘 | 叔父の妻 |
アイスランド | ヴィルフリズ | 母親 |
アメリカ | 孔雀の王 | 母親 |
イタリア | 美しいテレジーナと七人の盗賊 | 母親 |
エストニア | 盗賊の家の娘 | 母親 |
スコットランド | 金の木と銀の木 | 母親 |
ハンガリー | 世界一の美女 | 母親 |
フランス | アンジウリーナ | 母親 |
フランス | かわい子ちゃん | 母親 |
まさかの三つ巴ですね。意外に「姉二人」というのが多かったですね。
母親……………8話
継母……………12話
姉二人…………7話
ほか……………1話
「姉二人」の解釈

姉二人といっても、やっていることは「継母」と変わらずヒドいことをするので、ネガティブな母性を表現していますね。
「二人」の部分ですが、象徴的な世界での複数は、「漠然としている」「意識でとらえにくい」という意味になりますね。
二人になって、ぼんやりとしたものとなって、「継母」と同格になるという感じですかね。
実の母親と継母は同じくらい
類話が時代背景が、分からないので何とも言えないのですが、目安にはなるかと思います。
同じくらいという感じでしょうか。
とにかく、どちらも意地の悪い母親像ですね。
伝統的に継母話は存在する
昔から継母話は存在するということは、マレが言うように、昔の人も「母親の地位を傷つけてはならない」という意識があったのかもしれませんね。
「母親」を残酷にしてはならないという意識が、昔だからこそ強くて、話の中身も「継母」に変更を余儀なくされたということ考えられます。
心の中の「継母」

これまでは、「母親ではないもの」という消去法で「継母」にしていた感がありました。
「どうして、継母になるのか?」という質問に答え切れてはいませんでした。
もっと、心の内側の方に目を向けて、心のイメージとしての「継母」を見ていきます。
いつもの呼び方では呼びたくない時

マックス・リューティが本の中で、精神科医ヴィトゲンシュタインの著書について、言及しているくだりです。ヴィトゲンシュタインが、子供の頃を回想している場面です。
わたしがまだ子供だった頃、わたしの母親がわたしの大好きなおもちゃを取り上げたことがあった。
(中略)
継母というものがあることを、わたしはまだ知らなかった。わたしは、ただそう感じただけで、それを言い表すことはできなかった。
なんといっても母親は大人だったから。
「本当のお母さんなの?」という気持ちですね。
この時、子供は、母親を憎悪のまなざしで見ているでしょう。これこそ「悪」ですね。
このように思ったことのある人は、多いのではないでしょうか。
この心象イメージが「継母」をつくりだすということですね。
これは、どうして「継母」でなければならないのか?という疑問も解決しています。
「実の母親」の消去法ではなく、「継母」でなければならない理由がこの経験の中にありますね。
「自分の本当の母親ではないのではないか?」
これが、
「本当の母親は、もっと、どこか他にいるのではないか?」
こうなってくると、目の前にいる母親をもはや「母親」とは呼びたくないはずです。
自分の心の内容を含めて、ぴったりくる言葉で表現するとしたら、「母親」ではなく「継母」になってくるのではないでしょうか。
だれもが「継母」に遭遇する
自分の正体を疑う気持ち
小学校をあがる前の子供には「自分は両親の本当の子供ではないのだ。継子か、拾い子なのだ。両親が、ただそれを言わないだけなのだ」
と思い込んでいる子が多いことは、よく知られている。
ここで私たちは、なぜ世の中には継母話があんなに多いのか、というひとつの理由に突き当たる。
継母話は子供ばかりでなく、人間一般の根本感情に一致しているのである。
拠り所が揺らぐとき「継母」(根本感情)を経験する

ユング派の多くが、「感情=女性」と解釈をするように、この「根本感情」は「継母」なのでしょう。
この「根本感情」を経験しているのが、子供だけではありません。大人でも、マリア様や観音様といった母親像を宗教的な拠り所としています。大人といえども、精神的な母親像に頼っているのは確かです。
今まで頼っていた母親像に疑いを持つということは、自分の心の拠り所に疑いを持つことになります。
「継母が迫害する」という描写の意味

この感情的な疑惑のようなものが、昔話では継母からの「迫害」となっているのは意味のあることでしょう。
自分が拠り所を失うことは「迫害」のようなものかもしれません。
そして、大事なことは、たいていの主人公は、その困難を克服していくということです。
成長させる「継母」

ポジティブに見れば、「継母」の出現はその人の変革の時期に来ていると見ることもできますね。
子供の成長、人間の成長にともなう変化が訪れることで、「もう頼ってはいられない母親像」に別れを告げる合図として「継母」が出現するのでしょう。
変わるべきなのに変わっていない状況にあるならば、心になんらかのメッセージが届いても不思議ではありません。
継母という困難を乗り越えて、もう一度高度な拠り所を創り上げることができれば、「継母」は主人公の成長に力を貸したことになります。
たいてい、継母話の主人公はハッピーエンドになりますし、最後に「継母」が死ぬことになるのも、継母の正体である根本感情からの卒業を意味するのでしょう。
昔話の継母は、学ぶことは多いですね。
グリム童話「継母が登場する12話」一覧表
KHM | タイトル |
---|---|
11 | 兄と妹 |
13 | 森の中の三人の小人 |
15 | ヘンゼルとグレーテル |
21 | 灰かぶり(シンデレラ) |
24 | ホレおばさん |
47 | ねずの木の話 |
49 | 六羽の白鳥 |
53 | 白雪姫 |
56 | 恋人ローランド |
135 | 白い花嫁と黒い花嫁 |
141 | 小羊と小魚 |
186 | 本当の花嫁 |
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