『白雪姫』の女王の迫害する道具についての記事です。
ポピュラーな『白雪姫』では、毒リンゴが有名ですね。
ヨーロッパでは、民話の『白雪姫』が多くあります。
民話の『白雪姫』では、主人公をいじめるのに、どんな道具が使われるのでしょう?

民話の女王も、やっぱり「毒リンゴ」かしら?
道具についての象徴的な解釈もしています。
ディズニーとグリム童話『白雪姫』女王の迫害道具は?
タイトル/主人公 | 迫害者 | 殺害道具 | |
---|---|---|---|
ディズニー映画 | 白雪姫 | 女王(継母) | リンゴ |
グリム童話第7版 | 白雪姫 | 女王(継母) | ひも、くし、リンゴ |
ディズニーはリンゴの1回だけ。
グリム童話はひも・くし・リンゴと3回。
ディズニー『白雪姫』のリンゴ

©Disney
ディズニーのリンゴで特徴的なのは、「毒リンゴ造り」の説明書があるということです。
この説明書を頼りに、女王は毒リンゴを造りますが、その説明書に大事なことが書かれてあります。
「リンゴの毒はキスで解毒される」ということですね。
下手な解釈はしたくないのですが、おそらく「愛」のようなものが関係しているのでしょう。
毒リンゴ造りは、グリム童話の初版から追加されたものですが、説明書については、どの民話を探しても見当たらないですね。
ウォルト・ディズニーの創作だということが分かります。
グリム童話『白雪姫』のリンゴ
はじめの「ひも」と「くし」で倒れてしまった白雪姫には、小人の蘇生措置でなんとか生き返らすことができました。ですが、リンゴでは小人をもってしても蘇生はできないということで白雪姫はガラスの棺に納められます。
この部分を見ても、リンゴの意味合いの大きさを感じさせますが、リンゴの意味については、こちらの記事を読めば理解が深まると思います。▶ 【昔話】リンゴの象徴的な意味【愛の起源アンドロギュノス】
さて、リンゴを食べたにしろ、白雪姫はガラスの棺による長い眠りの期間を経て生き返るわけですが、その生き返り方は版によって違いがあります。
出版されなかった初稿(エーレンベルク稿)のリンゴの蘇生については、ちょっと特別なので【原作】白雪姫 初稿・初版・第2版・第7版【ガチな人のための全セリフ:グリム童話】で解説しています。
- 初版 :召使いがいら立って、白雪姫の背中を殴る
- 第2版以降:棺をかつぐ召使いたちが、藪の木に足をとられてよろめく
これを起因として、白雪姫がのみ込んでいた毒リンゴが、のどから飛び出るということになります。
初版では、召使いが白雪姫の背中を殴ったことで蘇生したのですが、グリム兄弟はどうもそのままにしておくことができなかったようですね。初版→第2版への変更は「偶然の出来事」にしたかったという声があります。
グリム兄弟は、民話の白雪姫を多く持っていましたが、下記の一覧表の民話を読んで思うのは、主人公への救済の意志をもって救済されることはほとんどないということですね。
救済の意思をもって救済できるのは、おそらく小人くらいのようです。
人が生き返らせることはあるにはあるのですが、刺さっていた針を抜いてみたら偶然生き返ったとか、指輪をはずしてみたら生き返ったとかで、生き返えらせた本人も驚いてしまうというのがほとんどですね。
このあたりの意味をグリム童話に取り入れたのかもしれません。
【一覧表】民話の女王も毒リンゴで殺したのか?
民話でも、母親vs娘の形を変わらずとっていますので、母親が娘を迫害する話になっています。
では、民話の女王はどんな道具で使ったのでしょうか?
国 | タイトル/主人公 | 迫害の道具 |
---|---|---|
ギリシア | ミュルシーナ | ケーキ、母親の形見の指輪 |
イタリア | マルゼッタ | ケーキ、帽子 |
スイス | まま娘 | コルセット、リンゴ |
エストニア | 盗賊の家の娘 | ドレス、腕輪、イヤリング |
イタリア | ジーリコッコラ | ピン、くし、刺繍のブラウス |
イタリア | 美しいアンナ | ぶどう |
ロシア | オレチュカ | リンゴ |
スペイン | 美しい継母 | 靴 |
フランス | 魔法の靴下 | 靴下 |
イタリア | テレジーナと七人の盗賊 | 指輪 |
イタリア | マリア | 指輪 |
オーストリア | 三人姉妹 | 指輪、コルセット、頭に針 |
ハンガリー | 世界一の美女 | 指輪、ピン |
ロシア | 魔法の鏡 | 指輪、ヘアピン |
ポーランド | 頭の中の釘 | 指輪、頭に釘 |
スコットランド | 金の木と銀の木 | 小指に針、飲み物 |
フランス | かわい子ちゃん | 赤いドラジェ(砂糖菓子)、赤いドレス |
アイルランド | アイルランドの輝く星 | 爪に眠り針 |
スペイン | 娘と盗賊 | 中指にはめると死ぬ指輪 |
フランス | 王様の小鳥 | 頭に針 |
イタリア | 奴隷娘 | 道具なし(素手で毎日顔を殴り傷つける) |
フランス | アンジウリーナ | 火に投げ込むと叫び声を上げる本、髪結いの魔法 |
ドイツ | 白雪姫(異本) | イチジク |
簡単に、統計をとってみます。
指輪 | 7 |
衣服(コルセット、ドレス) | 5 |
アクセサリー(イヤリング、腕輪、ピン) | 4 |
針、釘 | 4 |
リンゴ | 2 |
ケーキ | 2 |
靴、靴下 | 2 |
こんな感じですね。
結果を見ると、リンゴは少ないです。
ざっと見渡して、ざっくりの感想ですが、「女性が着飾るもの?身につけるもの?」みたいな感じでしょうか。
一覧表の迫害道具の意味
どのように攻撃するのか、わけのわからない迫害道具があるかと思うのでご説明します。
ぶどう、ケーキ
ぶどうやケーキは毒が盛られてます。
指輪、ドレス
指輪やドレスも、毒が塗ってあります。
はめたり、着たりしたら倒れるといった具合です。
針
針は、母親が単純に刺します。
場所は、指、爪、頭などです。
結論:美しさを高める道具が多い
民話で利用される迫害道具の意味ですが、共通点から考えると、
- 美しさを促進させるもの
- 美しさを高めるもの
確かに、ほとんどの母親が「美しさへの嫉妬」を動機にしています。
とすると、母親からすれば、美しさを高める道具で、痛めつけることができるなら、気持ちがこもる?ということでしょうか。
自分が美しさで負ける、自分が醜いという憎しみを十分に晴らすには、「美しさを高める道具」が最適なのかもしれません。
民話の道具の象徴的な意味
いろんな道具が出てきたので、その象徴的な意味について解説していきます。
「指輪」の象徴的な意味
基本的に指輪は、束縛を意味します。
束縛の意味は、規律や契約へと広がっていきます。
ですが、これが一転まったく逆の意味にもなるんです。
この世にふさわしい規律や、神との契約などになってきますと、束縛だったものが、束縛ではなくなってきます。
つまり、身につけるべき「束縛」を身につければ、その人は束縛を感じなくなるんです。
これ、分かってもらえるかと思いますが…。
あるべき束縛というのもあるので、ともすれば、束縛は自由とか救済とかの意味にもなってくるのです。
ですから、指輪が幸福な意味合いがあるのも分かりますね。
日本の指輪の歴史
ちなみに、日本では、縄文時代には身につけていたようですが、それからは、ぱったりと消えてしまって、次に普及したのが文明開化の明治からということなので、相当長い空白期間があったことが分かります。
いろいろと、理由はあるようですが、農業、稲作が仕事だったので邪魔だったのでは?と言われています。
「針」の象徴的な意味
象徴的な世界では、針は、糸車や紡績などにも広がりますが、女性の持ち物です。
そして、針は思春期のナイーブな時期に降りかかる運命的な衝撃を意味します。
少女の成長期にショッキングな出来事そのものともいいます。
これは、さまざまですが、生理的なことから身体に関すること、またはじっさいの異性との出来事なども関係してくるようです。
女性が針に刺されることは、現実世界ではどんな時?
昔話にくわしい心理学者の意見も織り交ぜていきます。
ベッテルハイムの『昔話の魔力』は、針に刺されることを単純な解釈で、男女の性交を挙げています。
あわせて初潮も取り上げています。
多くの女性は、子供から乙女へ変わるとき、つむのひと突きを経験しなかっただろうか。
(中略)
生理的なレベルでは、それは初潮と考えてみることもできるだろう。
あるいは、男性からはじめて声をかけられたり、思いがけない恋文が鞄の中にあって驚いた経験と見てもよいだろう。
あるいは心の内部のこととしてみるならば、女性の心中に存在する男性的傾向からの刺激と見ることもできる。
どうして男性と女性が区別されるのか、(中略)…などとこの年頃で考えた女性は多いであろう。
針は、女性の中に芽生えた異性的な傾向のようです。
いばら姫では、100年眠るお城はいばらに覆われてしまいますが、そのいばらも王女の中の異性なのかもしれません。
針についていえば、歴史的に見て、衣類系の仕事を女性が専従していたということも深く関係しているでしょうね。
今回は以上です。
なお、道具を使っての迫害シーンの意味・解釈は、また別記事になってます。>>>【白雪姫】美しくありたい白雪姫に醜い老婆がやってくる【迫害のシーンを解説】
▶ 【白雪姫民話シリーズ(狩人編)】民話の狩人役もやっぱり狩人か?