美女と野獣の類話になります。
最も古い話は、2世紀アプレイウスの「黄金のロバ」の中の挿話として出てくる「アモールとプシケー」です。
またグリム童話では、「鳴いて跳ねるひばり」が類話としてあげられます。
今回は、アスビョルンセンの「ノルウェー民話集(1845年)」から「太陽の東 月の西」のあらすじです。
【あらすじ】太陽の東、月の西

1/14
昔むかし、あるところに、ひとりの貧乏な百姓が住んでいた。
子供がたくさんあったが、末の娘は、だれより美しかった。
ある日、窓ガラスをたたく音がした。
父親が見に行くと、大きな白クマが立っていた。
「末の娘さんを私に下さい! そうすれば、貧乏と引き換えに、大金持ちにしてあげましょう」
百姓は末の娘に相談する。
しかし、娘は聞く耳を持たない。
白クマとは、来週の晩に、また来てくれるように約束する。
それから、百姓は末の娘に説得。
金持ちになると、どんないいことがあるか、娘にとってどんなに幸せか、くり返し話して聞かせた。
とうとう、娘も心が変わり、白クマに連れて行かれることに。

2/14
約束の晩になると、白クマがやってきた。
娘は、白クマの背に乗り、遠い山のふもとまで連れていかれる。
その前にあるドアを開くと、そこはお城になっていた。
たくさんある部屋は、みんな明かりをともしていて、金と銀で輝いていた。
食卓には、ごちそうの準備が整っていて、なにからなにまで豪華だった。
娘は、旅の疲れで、眠くなり、ベッドに横になる。
部屋の明かりを消すと、ひとりの男がベッドに入ってくる。
この男は、白クマだった。
夜になると、白クマはケモノの身なりを脱ぎ捨てた。
このことは、毎夜続いた。
しかし、娘は、その姿を見たことはなかった。
いつも、消灯してから入ってきて、夜が明けないうちに出て行ってしまう。

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しばらくは、楽しく時間は過ぎていった。
けれども、娘は1日じゅうひとりぼっちにされていたので、だんだん家に帰りたくなってきた。
そんな娘に、白クマがたずねると、娘は毎日ひとりで退屈なこと、家に帰りたいことを打ち明けた。
「わかった。なんとでもしてあげるよ。けれども、1つだけ約束をしてくれ。決して母親と二人きりで話をしないこと。きっと、母親は2人だけで話をしようとする。そんなことをしたら、私たち2人はたいへんな目に遭うことになる」

4/14
娘は、白クマの背に乗って家に帰った。
家は見違えるほど、立派なものになっていた。
家族は、娘に感謝していた。
しばらくすると、母親が二人で話したいと言ってきた。
娘は白クマの言う通りにして、母親の誘いを避けていた。
だが、言いくるめられ、二人だけの席をつくられた。
母親は、娘の生活を打ち明けさせた。
毎夜、明かりを消すと男が入ってくること。
夜が明けないうちに、いなくなること。
その姿を一度も見たことがないこと。
一日じゅう、取り残されてさびしいこと。
その男を見てみたいが、できないことなど。
包み隠さず話した。
すると、母親は、「それは、トロールかもしれないよ」と言った。
そして、その男を目にするため、娘にロウソクを渡した。

5/14
いつものように、男がベッドに入ってきた。
夜が更けて、男の寝息が聞こえるようになると、娘はロウソクに火をともした。
すると、そこには、今まで見たことがないような美しい王子が眠っていた。
娘は、たちまちにして好きになった。
娘が王子にキスしようとすると、王子のシャツの上に、熱いロウが三滴落ちた。
とび起きた王子は、
「なんてことをしたのです!」
と叫んだ。
「とうとう、私たちを不幸せにしてしまった。継母が私に魔法を掛けていたために、昼は白クマだったが、夜は人間になれた。この一年、我慢すれば自由の身になれたのに…。今となってはすべてがダメになった。こうなっては、継母がいる太陽の東、月の西にあるお城に帰らなければならない。そして、私は鼻の長いお姫様と結婚しなければならないのだ」
娘は、泣いて悲しみながら、最後にこう言った。
「では、道を教えてください。きっと探しておたずねします」
王子はと言った。
「お城は、太陽の東、月の西にあるが、そこへ行く道はけっして見つからないだろう」
翌朝、目を覚ますと、王子も城もなく、娘は暗い森の草原の中に横たわっていた。

6/14(繰り返し箇所)
娘は、長い間歩いて行くと、岩山にたどり着いた。
山のふもとには、年とった魔女がひとり座っていて、金のリンゴを投げて遊んでいた。
娘は、太陽の東、月の西にあるお城への道は知らないかと魔女にたずねた。
しかし、魔女は太陽の東、月の西にお城があるということは知っていたが、それ以外は何も知らなかった。
「ああ、お前がその王子と結婚するはずだった娘なんだねえ」
と魔女はいった。
「とてもじゃないが、おまえにそこまでいかれやしないよ。けれども、私の馬を貸してあげるから、それに乗って、次のおばあさんのところへ行ってごらん。それから、金のリンゴを持って行くがいい」

7/14
これから、お城まで、娘がたずねていく順番は、
魔女①→(現在地)→魔女②→魔女③→東風→西風→南風→北風
となります。
そこで、魔女①(6/14)、東風(8/14)、北風(9/14)のみを記載することにします。
なお、魔女①②③で変化のある部分はこちらです。
魔女①金のリンゴ
魔女②金のくし
魔女③金の糸車
それでは、東風からになります。

8/14
長い旅をしたあげく、やっと東風の家に着いた。
娘は、太陽の東、月の西にあるお城への道は知らないかと東風にたずねた。
東風は、王子様とお城のことなら何度も聞いたことはあったが、道は知らなかった。
そんなに遠くまで吹いたことはないと言った。
「けれども、もし、お望みなら、私の兄弟の西風のところへ連れていってあげよう。さあ、私の背中に乗りなさい」
娘が背中に乗ると、東風は勢いよく飛んでいった。
(省略:西風、南風)

9/14
北風の家の近くまで来ると、北風は気難しく、乱暴な性格のため、遠くからでも冷たい風を送ってきた。
「お前たちは、何の用で来た?」
と北風が怒鳴ると、娘と南風はちぢみあがった。
「そんなひどい口をきかなくてもいいじゃないですか」
と南風は言った。
「弟の南風ですよ。この娘は、太陽の東、月の西のお城に住んでいる王子様と結婚するはずだった人で、そこまでの道を知りたがっているんです」
「俺は、どこだかよく知っているよ」
と北風は言った。
「一度だけ、ポプラの葉1枚そこまで吹き飛ばしたことがあるんだ。だが、その時はとても疲れてしまって、それから何日も、ひと吹きもできなかったくらいだ。しかし、本当に行きたいのなら、背中に乗せて、吹いていけるか、やってみてもいいが」
娘は、たのんだ。
「いいだろう。だが、今晩は、ここに泊まるがいい。うまくいったとしても1日はかかる」
翌朝、北風はぐんぐんと上へ横へと、自分をふくらませ、見るも恐ろしいほど巨大にふくれあがった。
そして、空高く世界の果てまで行くかのようにビュッと飛び立った。
こうして、遠くへ遠くへ吹いていった。
北風は、疲れてきたが、最後の力をふりしぼった。
そして、やっとのことで、太陽の東、月の西にあるお城にたどり着いた。
北風は、すっかり疲れ果て、いく日もそこで休まなければならなかった。

10/14
あくる朝、娘はお城の窓の下にすわって金のリンゴで遊んでいた。
すると、そこに、鼻の長いお姫様がやってきた。
「そこの娘さん、なにをあげたら、その金のリンゴをくれますか?」
娘が、
「もし、このお城に住んでいる王子様と今晩一緒にいられるのなら、金のリンゴをさし上げてもいいです」
鼻の長いお姫様は聞き入れて、金のリンゴをもらった。
ところが、その夜、娘が王子様の部屋にいくと、ぐっすり眠りこんで、呼んでも、揺すぶっても、泣いても起きてはくれなかった。
金のリンゴ(10/14)→金のくし(省略)→金の糸車(省略)
と、この部分3回繰り返します。
それでは、金の糸車を鼻の長いお姫様に渡して、王子様の部屋に行くところからです。
11/14
ところで、お城には、何人かさらわれてきていた人がいた。
その人たちは、王子の隣の部屋にいたので、ふた晩続けて、娘が泣き叫ぶ声を聴いていた。
そのことを王子に話していた。
夜になると、鼻の長いお姫様がやってきて、眠り薬をもってくると、王子は飲んだふりをして、後ろに捨てた。
隣の人たちから聞いたことで、それが眠り薬だと分かったからだった。

12/14
そこへ、娘が入ってきた。
娘は、王子が起きていたので、びっくりして立ち尽くした。
王子はこれまでのことを聞いた。
娘はこれまでのことを話した。
「ちょうどいいときに来てくれた。明日は結婚式。私を自由の身にすることができるのは、あなたしかいない」
そして、王子は明日の結婚式の計画を娘に打ち明けた。
「私は、明日、花嫁にふさわしいかどうか、ロウのしずくが3つ付いているシャツを洗い落とすように仕向けようと思う。これは、人間でなければ落とせない。ここにいるトロールどもにはできないことだ。そして、明日あなたに洗い落としてもらう」

13/14
あくる日、王子様は実行に移した。
「私は、まず花嫁にふさわしいかどうかを確かめたいのだ」
みんなが賛成し、ロウのしずくが3つ付いたシャツが持ち出された。
はじめ、鼻の長いお姫様がシャツを洗った。
ところが、こすればこするほど、しみはますます大きくなっていった。
今度は、母親の年とった魔女が進み出た。
けれども、シャツは前より、いっそうひどくなった。
ほかのトロルたちも、やってみたが、まったく同じことだった。

14/14
そこで、王子が口を開いた。
「おや、窓の下に娘がいるじゃないか」
王子は、娘を呼び、シャツを洗わせた。
すると、シャツを手にとって、水につけただけで、たちまち雪のように白くなった。
「ああ、あなたこそ私の花嫁になる人だ」
これを見た魔女は、カッとなって怒ったあまり、体がはじけてしまった。
鼻の長いお姫様も、その場にいたトロルも、みんなはじけてとんでしまった。
王子と娘は、閉じ込められていた人たちをみんな助け出してやった。
それから、金や銀をたくさん持って、遠く離れた場所へいくため、太陽の東、月の西にある、このお城をあとにした。
「美女と野獣」野獣の象徴的な意味と解釈

「男性は女性の自我確立を妨害したがる」
これが、「野獣」に象徴的な意味ですね。
野獣は、ほとんど娘を囚われの身として、娘に制限のある生活を欲しています。
娘が「やってはならない」ことを野獣が一方的につくりだし、押しつけることになります。
このような、男性的な側面、これが、「野獣」という象徴表現になっていきます。
野獣はなぜ生まれるのか?
この「野獣」生まれる理由として、心理学者の河合隼雄は、「男性は母なるものに抱かれていた「楽園」の夢を捨てかねるため」と説明しています。(1)
むずかしいのですが、おそらく、「女性に求めているのは、意志ではなく母性なんだ」と深層心理で訴えているために、意見を言う女性に対して、いら立ってくるのでしょう。
そんな背景があって、男性の理性は飛んでしまうのだと思います。
その辺りが、「野獣」の根源のようです。
現代でも、「野獣」は健在

これは、現代の男女関係でも例えることができます。
今は男女ともに、相互的な関係を結びましょうとか、女性は社会に進出して自我を確立しましょうというのが常識になっています。
社会的にはそのようになっていますが、問題が起きているとすれば、もしかしたら「野獣」が出現しているのかもしれません。
例えば、アメリカの家庭内暴力の原因の多くが「妻の正論」だといいます。正論を受けた夫は、口では何も言えなくなり、理性が飛んで手を上げるという結果になります。
ここでも、女性の自我を囚われの身にしたい「野獣」がちらついて見えますね。
「美女と野獣」のその後の物語は、女性が独立していく苦難を象徴的に描きながら、だからといって女性性を捨て去らない生き方が語られています。
このもとになる話「アモールとプシケー」の結末で、二人の間に生まれた子供の名前が「ウォルプタース(性の喜び)」というのも、この物語のゴールを表しているのかもしれませんね。
また、日常生活でも、「野獣」を見つけたら、「美女と野獣」話に触れてみましょう!
↓で紹介しているオーディオブックにも、「美女と野獣」入ってますよ。
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エリック・ノイマン(1973)『アモールとプシケー』(河合隼雄監修・玉谷直美・井上博嗣訳) 紀伊國屋書店.