『奴隷娘』(The Young Slave)は、AT709に分類される白雪姫の類話です。
『奴隷娘』(The Young Slave)あらすじ

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リッラは、同じ年頃の友達と遊んでいた。
バラの植木をさわらずに、飛び越えることができたら、ごほうびをもらうという遊びだった。
みんなカエルみたいに跳んでいたが、誰も成功できなかった。
リッラが、勢いよくジャンプして、植木を飛び越えた瞬間、バラの花びらが一枚散った。
リッラは、誰にも見られないように、素早くひろってそれを食べた。
それで、リッラはごほうびをもらった。
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突然、リッラは妊娠した。
後ろめたいことは何もしていないのにと、死ぬほど嘆いた。
親しい妖精に相談すると、
「心配するな、飲み込んだバラのせいよ」
と教えてくれた。
リッラは、おなかが大きいのをさとられないようにして、ひっそりと女の子を産んだ。
娘には、リーザと名づけた。
リッラは、娘を妖精たちに会わせると、みんな贈り物をくれた。
だが、最後にかけつけた妖精が、すべって転んだときの足の痛さのために、呪いの言葉を吐いた。
「この子が7歳になったら、母親が髪の毛に刺したくしによって、死んでしまうだろう」
妖精は、そのように予言した。
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7年後、その通りになった。
リッラは、娘のなきがらを七重の入れ子にしたガラスの箱におさめた。
そして、屋敷の端っこの部屋に置いて、鍵は自分で持っていた。
しかし、娘を亡くした大きな悲しみは、リッラを死へと追い詰めた。
リッラは死ぬ間際、兄の男爵を呼んだ。
「この鍵は、箱の中にしまっておいて、一番端の部屋だけは開けないでください」
と男爵に頼んだ。
リッラは、まもなく死んだ。

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数年たって、男爵は結婚して妻を迎えた。
ある日、男爵は、狩猟のため、妻に留守を頼んだ。
その際、箱の中の鍵を教え、
「一番端の部屋だけは、絶対に開けてはいけない」
と念を押した。
夫が出掛けたら、妻は、疑心暗鬼、嫉妬、好奇心の感情の炎に焼かれた。
女は、鍵を箱から取り出し、一番端の部屋を開けた。
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すると、七重のガラスの箱の中に女の子の姿があった。
リーザは、ふつうの女の子と同様に成長していた。
不思議なことに、リーザの成長と共に、箱も大きくなっていた。
リーザは、美しく眠っていた。
男爵夫人は、
「なんて、美しい人だろう。見張っていたつもりなのに、ちゃんと、浮気しているんだから」
と感情を抑えることはできなかった。
男爵夫人は、ガラスの七つの箱をひとつずつ開けた。
そして、リーザの髪の毛をわしづかみにして、引きずり出した。
その時、髪に刺さっていたくしが抜けた。
すると、リーザは長い眠りから目を覚ました。
リーザは、
「お母さん」
と叫んだ。
夫人は、憎しみに燃えたぎった。
すぐさま、リーザの髪をばっさり切って、ぼろを着せて、顔を毎日なぐりになぐった。
リーザの目のまわりは、あざで黒ずみ、口もとは血まみれになった。
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男爵が帰宅し、むごい仕打ちを受けたリーザを見て、
「この人は誰なのか?」
とたずねた。
夫人は、
「おばにもらった奴隷娘ですが、強情なので、こうしなきゃ仕方がないのです」
と言った。

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ある日のこと、男爵は出掛ける前に、お土産に何が欲しいかと、家じゅうの者に聞いてまわった。
男爵の目が、奴隷娘に止まると、「奴隷娘まで一緒にするのか」と夫人は不満をこぼした。
男爵は「奴隷だって言ってごらん」とたずねると、リーザは、
「人形と、ナイフと、軽石が欲しいです。これをお忘れになったら、帰りに最初の川を渡れないでしょう」
と言った。
買い物をした男爵は、リーザの物だけ忘れていた。
川辺にやってくると、石や木が岸に打ちあげられて、岸壁のように立ちはだかって川を渡れなかった。
男爵は、あの娘の魔法だなと気づき、すぐに三つの品を買ってくると、無事に家に帰ることができた。
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リーザは、台所へ行き、これまでに受けた迫害を人形に話しはじめた。
まるで、人間に話すように、泣きながら訴えた。
リーザは、軽石でナイフを研ぎ、人形に向けた。
「さあ、なにか言わなきゃ、これで刺してやるからな。そうすれば一巻の終わりだぞ」
と言った。
人形は、かすかにゆれはじめ
「はい、わかりました。聞こえました」
と答えた。
人形への話は、二日間続いた。
そこへ、男爵の耳にリーザの声が聞こえた。
男爵は、鍵穴からのぞいた。
すると、リーザと人形が見えた。
そして、話が聞こえてきた。
母がバラの木を跳び越え、花びらを食べて自分が生まれたこと、
妖精の呪いと、髪に刺さったくしのせいで自分が死んだこと、
七重のガラスの箱に入れられ部屋に置かれたこと、
母の死、
部屋の鍵は、おじがあずかっていたこと、
おばが端っこの部屋を開け、自分の髪を切って奴隷にしたこと、
おばから、ひどい仕打ちを受けたこと、
リーザが、洗いざらい人形に訴えているのを男爵は耳にした。
リーザは、軽石でナイフを研ぎ、泣きながら、
「何か言ってよ、人形ちゃん、でないと、このナイフで、わたしは死んでしまう」
そこへ、扉をけやぶり、隣の部屋から、男爵が飛び込んでリーザからナイフをひったくった。
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男爵は、詳しく話を聞いたあと、家から連れ出し、親戚の家にあずけた。
リーザは、やせほそり、見る影もない様子だったが、数ヶ月後、女神のように美しくなって帰ってきた。
男爵は、みんなに、めいを紹介して、宴会を催し、ご馳走をふるまった。
そして、リーザにおばの残酷ないじめを打ち明けさせた。
賓客たちは、もらい泣きする人もいた。
男爵は、妻を追い出して、実家に帰らせた。
リーザには、すてきなお婿さんを選ばせてやった。
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ペンタメローネ『奴隷娘』解釈・感想

『白雪姫』『眠れる森の美女』『シンデレラ』の混交
聞いたことのある話が、混ざっていましたね。
ガラスの棺 白雪姫
妖精の予言 眠れる森の美女
お土産を買ってくる シンデレラ
遠回しの表現
冒頭で言っていることは、遠回しなアレの表現でしょうね。
直後に、妊娠発覚しますし…。
「バラの植木を跳び越えて、一枚の花びらを食べる」
妖精に花びらを食べたから、妊娠したと告げられます。
「植木に触れてはいけないルール」
「他の友達は成功できなかった」
とか、意味ありげですよね。
ちなみに、『太陽と月とターリア』では、
「愛の果実を摘み取る」という表現でしたね。
リーザは近親相姦の娘?

リッラを妊娠させた相手、ある解釈本では、父親は男爵じゃないかと言っているのもあります。
この証拠になるかは、わかりませんが、白雪姫の構造にこの話を当てはめると、見えてくるものがあります。
「白雪姫」の王様と最初の王妃が、「奴隷娘」の男爵とリッラに当てはまるんです。
白雪姫の話の流れは、
- 最初の妻が亡くなる
- 新たな妻をむかえる
- その継母が娘を迫害する
という流れですね。
「白雪姫」の最初の母親は亡くなってしまい、新たに迎えた王妃が、白雪姫を迫害することになります。
「白雪姫」の最初の母親は亡くなりますが、「奴隷娘」のリッラも死んでしまいます。
その後、「白雪姫」の王様は再婚しますが、「奴隷娘」の男爵もこのタイミングで結婚するんですね。
新たに迎えた結婚相手が、どちらの話も、娘を迫害するということになります。
このように、白雪姫の話を構造的な視点から見ると、王様=男爵、最初の母親=リッラという図式が見えてくるかと思います。
とすると、おのずと考えられるのは、男爵とリッラとの関係。
リーザの父親は、男爵?かもって感じですね。
それでは、今回は以上です。