『太陽と月とターリア』(英:Sun、Moon、and Talia、伊:Sole、Luna、e Talia)
は、『ペンタメローネ』最終日5日目のちょうど真ん中、5番目に披露された話になります。
また、この話は、昔話の型AT410に分類され、ペロー童話『眠れる森の美女』グリム童話『いばら姫』の類話です。
ペンタメローネ(1634-1636) | 太陽と月とターリア |
ペロー童話(1697年) | 眠れる森の美女 |
グリム童話(1812年) | いばら姫 |
【超あらすじ】太陽と月とターリア
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王様は、生まれた姫の名前をターリアと名付ける。
→ 国じゅうの予言者を集めて、姫の将来を占う。
→ 姫は、亜麻に混ざったトゲで危険な目に遭うと予言される。
→ 王様は、亜麻などを館の中に置くなと命じる。
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姫が成長したある日のこと、ターリア姫は、糸を紡ぎながら歩いている老婆を見かける。
→ 初めて見た道具への好奇心でいっぱいになり、老婆を連れてきてもらう。
→ 自分でもやってみる。
→ 亜麻に混ざっていたトゲが、爪の下に深く刺さって倒れてしまう。
→ 老婆は、びっくり仰天し、部屋から逃げていく。
→ 悲しんだ王様は、ターリアを「刺繍で飾りたてた天蓋の下のビロードの椅子」に座らせる。
→ 扉を閉め、王様は森の真ん中のこの館に永久の別れを告げる。
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しばらくして、鷹狩りに来たよその国の王様が、鷹を追って、森の館に入ってくる。
→ ひと気がなかったが、とうとうターリアの部屋までたどり着く。
→ 眠っていると思い、声をかけたが、返事はない。
→ そのうち、王様は、恋の炎にあおられる。
→ ターリアを寝椅子に運んで、愛の果実を摘み取ると(←※原文テキスト通り)そのまま寝かせておいた。
→ 帰路についてからは、王様はこのことは忘れてしまう。
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9ヶ月後、ターリアは男女の双子を産む。
→ 二人の妖精が、双子の世話をする。
→ 子供が、乳を吸おうと思って、ターリアの指を吸うと、トゲが抜け落ちてターリアは眠りから目覚める。
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ある日、王様は森の館のことを思い出して、再び狩りに出掛ける。
→ 目覚めたターリアと双子の子供を発見し喜ぶ。
→ 二人はすぐに意気投合する。
→ 双子はソーレ(太陽)とルーナ(月)と名づけられる。
→ 王様は、今度は国へ連れて帰ると約束して、一人で帰る。

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帰国すると、王様は、ターリアと双子の子供の事ばかり話す。
→ 実は、王様には、王妃がいた。
→ 王妃は、狩りで留守にする王様を怪しいと思っていた。
→ 家臣を呼んで、真相を聞くと、家臣はすべて打ち明けてしまう。
→ 王妃は王様の名前を使い、王様が双子に会いたがっていることをターリアに伝えさせる。
→ ターリアは喜んで双子を送り出す。
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子供を手に入れるやいなや、王妃は調理人に「喉をかき切って、細切れに切り刻んで、ソースで煮て、王様に食べさせろ」と命じる。
→ 料理人は、金のリンゴのように美しい双子を見ると、かわいそうに思って、料理人の奥さんにかくまってもらうことにする。
→ かわりに、山羊を二匹殺して料理を作る。
→ 王様は喜んで食べた。
→ 王妃は「どんどん食べてください。あなた自身のものを食べておいでなんですから」と何度も言う。
→ それをうとましく思った王様は、腹を立てて別邸へと引き上げる。
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まだ不満な王妃は、今度はターリアを呼び寄せ、散々怒鳴りつける。
→ 中庭に大きなたき火をたかせて、ターリアを放り込めと命じる。
→ 服を一枚ずつ脱いで、家来たちが引きずり込もうとした時、王様が駆けつける。
→ 王妃は、双子を王様が食べてしまったことを打ち明ける。
→ 絶望に狂った王様は、王妃をたき火へ投げ込めと命令する。
→ 同じく殺して料理した料理人も放り込めと命じる。
→ しかし、料理人は、真実を自白し、料理人の奥さんが双子を連れてくる。
→ 王様は、それを目にして一転、狂喜乱舞する。
→ ターリアは王妃となって、王様と末永く幸せに暮らした。
《終わり》
※ 最後、駆け足で終わっていく感じで、王妃がどうなったのか、曖昧な部分もありますが、原文がこんな感じです。
ターリアの名前の意味と由来

結論から言うと、明確な答えはないです。
昔話研究家の間でも、はっきりしていません。
ですが、有力な説はあるので紹介します。
カリスの女神たちのタレイヤ
カリスの女神たちとは?

『三美神』(アグライアー、エウプロシュネー、タレイア)ラファエロ・サンティ/絵
- 水の女神エウリュノメーの娘たち
- アプロディテの侍女など、大女神の介添え役
- 2人か3人の姉妹として登場する
- 語られる地方や異伝によって、メンバーに変化がある
- カリスの女神たちを主体とする神話は見られない
カリスの女神たちの様々な伝承
地方による伝えられ方や、本によっても違うので、タレイヤ、タリアーと2つありますが、どちらも同一の女神を指しています。
カリスの女神たちの伝承を見てみます。
アグライエー「輝き」
エウプロシュネー「喜悦」
タレイヤ、タリアー「花盛り、繁昌、栄え」
パーシテアー「万物の女神」
カレー「美女」
エウプロシュネー「喜悦」
アウクソー「大きくする、成長」
ヘーゲモネー「導く、女王」
カリスの女神たちの象徴的な意味
なお、名前の意味を並べて添えてありますが、それらの意味の共通点から、カリスの女神たちは「植物の成長に関わる精霊の一種」と見る向きもあるようです。
しかし、正確なところはわかっていません。
『太陽と月とターリア』では、ターリア姫は森の真ん中に置いていかれますが、それが植物の繁茂を意味するかどうか? タレイヤは、「花ざかり、繁栄」を意味するといいます。
とはいえ、いろいろな伝承が残っているこのカリスの女神たちは、昔から広く崇拝されてきたという証拠でもありますね。
眠りの神の妻パーシテアー

そして、このカリスの女神たちは名だたる神々の妻にもなっています。
アグライエーが、ヘーパイストスの妻になったりしています。ヘーパイストスはアプロディテの夫として有名ですが、こちらは天上の妻、カリスが地上の妻という異説があるようです。
さて、ここでちょっと気になる事実があります。
同じくカリスの女神たちの一人であるパーシテアーという女神の夫になるのが、眠りの神ヒュプノスだということです。(ホメーロス『イーリアス』、『パーシテアー(Wikipedia)』)
『太陽と月とターリア』と「眠り」は切り離せない主題なので、眠りの神が関係してくるのは気になるところですね。
ですが、妻になるのはパーシテアーですから、ターリアとはまったく似ても似つかないですね。
タレイヤならば、面白かったのですが…😩。
伝わっていく中で「パーシテアー」→「ターリア」に変容したか?

ただ、前述の通り、カリスの女神たちは非常に曖昧なところがあります。
じっさい、先にアグライエーがヘーパイストスの妻になったと書きましたが、異伝ではアグライエーという個人名ではなく「カリス」となっていたりします。
ヘーパイストスの妻はアグライエーとは言わずに「カリス」と伝えられることもあるのです。
とすると、眠りの神の妻は、パーシテアーですが、「眠りの神の妻は、カリス」という言い方も、間違いない事実なので、そのように伝わった可能性はゼロではないですね。
「眠りの神の妻は、カリス」のまま、イタリアに伝わり、南のナポリまで伝わり、そして、カリスの女神たちの中にはタリアーも含まれていますから――(強引か?)。
ペンタメローネは、口伝えで伝わった物語がもとになっています。
それをバジーレが再話したものなので、どこかでナポリへ伝わる間に「カリス」がパーシテアー→タレイヤ、タリアー→ターリアと転訛したしても不思議ではないでしょう。
これは、ちょっと強引すぎますかねw。
でも、ギリシア神話のカリスが有力ではあります。
まあ、よくわかっていないというのが結論ですね。
▶ 【あらすじ】太陽の東 月の西【野獣の意味】(ノルウェー)
▶ 【あらすじ】奴隷娘(イタリア)バジーレ:ペンタメローネ】
▶ 【超あらすじ】眠れる森の美女【原作:ペロー童話(フランス)】

ペンタメローネの概要
ジャンバティスタ・バジーレ(1573?-1632)
『ペンタメローネ』(1634-1636)全部で50話ある昔話集です。
中身は、同じくイタリアのボカッチオ『デカメロン』(1334年※異論あり)を模倣した内容になっています。
どちらも、語り手が、複数登場し、話を披露して面白さを競うという設定になっています。
まあ、今風に言うと「人志松本のすべらない話」みたいな感じですかね。
サイコロじゃないんで、ちょっと、違いますかね(;´Д`)。
デカメロンが、ギリシア語の「10日」、内容も、10日間で競うので『十日物語』。
それにならって、ペンタメローネは「5日」で5日間で競うので『五日物語』になります。
どちらも、語り手は、10名登場して、1日に1人1話ずつ披露されます。
よって、1日10話がお披露目されるわけです。
それで、『デカメロン』は10日間、『ペンタメローネ』5日間行われるので、それぞれ全部で100話と50話がかたられることになります。
ですから『デカメロン』は1人が10話分、『ペンタメローネ』は1人が5話分用意していることになりますね。
なお、この2つの物語は話の数は2倍の違いがありますが、全体の長さが、大体同じになっているということです。
なので、半分の50話しかない『ペンタメローネ』は一つ一つの話が比較的ちょっと長いみたいです。