グリム童話「小人の靴屋」のあらすじと、意味の解釈をしている記事です。
- 簡単なあらすじ
- 長めのあらすじ
2つのあらすじがあるので、お好きな方をどうぞ。
なお、「裸の小人」などの意味の解釈もありますので、よかったらどうぞ。
小人と友達になって、人生を豊かにしましょうv(^_^)v。
グリム童話 原作『小人の靴屋』簡単なあらすじ
- 靴屋は、貧乏になって、持ち物といえば、一足分の靴の革だけになってしまいました。その革を作業台に置き、眠りにつくと、あくる朝、立派な靴ができあがっていました。
- この不思議な出来事は、毎日続くので、靴屋は世間並みの暮らしを取り戻しました。
- 誰が作っているのか心がおさまらない靴屋夫婦は、寝ないでにこっそり覗くことに。すると、真夜中を過ぎた頃、そこへ二人の小人がやって来て、せっせと靴をつくっていました。
- 靴屋の奥さんは「何かお礼をしたい」と、服をつくって、作業台に置いておくと、小人は、服を着て、跳ねながら歌って踊って出ていってしまいました。小人たちは、それっきり、二度とやってくることはありませんでした。靴屋の夫婦は、その後も幸せに暮らしたということです。
グリム童話 原作「小人の靴屋」長めのあらすじ

起①:貧困の靴屋に奇跡が起こる
正直者の靴屋がいました。
一生懸命に頑張っていたのですが、次第に貧乏になり、しまいには、一足分の革のほかには、何一つなくなってしまいました。
靴屋は、明日の準備をすませ、夜のうちに、最後の一枚になった革を裁断してから床につきました。
あくる朝、目覚めると、不思議なことに作業台の上に立派な靴が出来上がっていました。
靴屋は目を丸くして、靴を仔細に調べますと、ひと針もごまかしがなく、この靴を作るには熟練した技術の持ち主でなければ作ることのできない天下一品の靴だとわかったので、いっそう不思議に思いました。
承②:奇跡は続く
まもなく、店に来たお客さんは、この靴が大変気に入ったので、余計にお金を支払ってくれました。
靴屋は、それで、二足分の革を仕入れることができました。
いつものように、靴屋は、夜のうちに革を裁断してから床につきました。
すると、次の朝、またもや靴が出来上がっていました。
それから、お客さんが二足の靴を買ってくれて、四足分の革を買えるだけのお金をくれました。
すると、次の日の朝も、ちゃんと四足分の靴が出来上がっていました。
こんな具合に、夜のうちに革を裁断しておくと、朝出来上がっているというのが続いたので、靴屋は世間並みの生活ができるようになっていました。
転③:原因を突き止める
クリスマスが近いある日のこと、靴屋は奥さんに言いました。
「どこの誰が、こんなに助けてくれるのか、今夜は起きて見てみようと思うんだが…」
奥さんも賛成して、一緒に部屋の隅っこの着物がぶら下がっている影に隠れて息を潜めていました。
そして、街は寝静まり、真夜中になる頃でした。
真っ裸の二人の小人がやってきて、作業台に乗っかるやいなや、靴の革を抱え込んで、小さな指をちょこまかちょこまかと動かして、針を刺すやら、縫うやら、叩くやら、片っ端から仕事を始めました。
その早わざには、靴屋夫婦は口をあんぐりさせて、ただただ、あっけにとられるばかりでした。
小人たちは、仕事を最後まで済ませ、作業台に出来上がった極上の靴を並べ終わると、素早く跳び出していなくなってしまいました。
結④:めでたしめでたし (^_^)V。
奥さんは、言いました。
「あの子たちが、わたしたちを助けてくれたんだから、どうしても、お礼がしたいねえ。あの子たち真っ裸で、かけずりまわっていたでしょう。あたしね、あの子たちにシャツと上着とズボンを縫って、それから靴下も編んでやろうと思うんだけど。あんたは、一足ずつ靴を作ってやらないかい?」
靴屋は、賛成して、その晩、二人は小人たちに着せるものをつくりあげて、いつもの裁断した革のかわりにひとまとめにしておいて、靴屋夫婦は、影に隠れて見ていることにしました。
そして、街は寝静まり、真夜中になる頃でした。
真っ裸の二人の小人がやってきて、仕事にかかろうとしましたが、いつもの裁断された革はなく、そのかわりに二組の着物を目にして、はじめは怪訝そうな顔をしていました。
やがて、小人たちはいかにもうれしそうな様子で、それこそ早わざで身支度をすませました。
すると、きれいな着物をさすっていたかと思えば、歌を唄いながら、ぴょんぴょん跳ねて外へと出て行ってしまいました。
それきり、小人たちは、二度とやってきませんでした。
一方、靴屋の夫婦は、生涯やることなすこと、なんでもうまくいきました。
『小人の靴屋』意味の解釈

小人の基本的な特徴
- 人間が困ったときに、出現する。
- 創造的な仕事をしている。
- 人間を避ける。太陽を嫌う。
小人に好かれる人
この話は、主人公の靴屋が、今までの生き方や、既存のやり方では、もうダメで、新たな生き方が求められているところからスタートします。
で、その突破口を開くのが小人ですね。
小人は、自然の諸力、自然の擬人化と言われます。
人間が、追い込まれると、「自然」に触れるときがあるのでしょう。
この自然は、恐ろしい自然でもあるし、創造性に変化する自然でもあります。
この話は、好転する話です。
その分岐点は、気になるところですよね。
何もせずに、最高の靴を夜な夜な作ってくれるなら、来てもらいたいものですが、それは、はじめの靴屋の紹介にあるかと思います。
前述の「長めのあらすじ」にあるように、靴屋が苦境に陥った理由のところに決まってこんな説明が入ります。
「一生懸命に頑張っていたのですが」とか、他の本では、「何も悪くないのに貧乏になった」とか、注意して読んでみるとしっかりありますね。
絵本も数冊読みましたが、この前置きはあるんですよ。
これも、いい小人がやってくる条件だと思いますが、もう一つ、この靴屋がいい年した中年というのもあると思うので、それは、後述したいと思います。
裸の小人に服をプレゼントする意味

この話で印象的なのは、靴屋の夫婦が、服をプレゼントしたら、小人は二度とやってこなくなったことですね。
どうして、そうなったのか。
小人は、意識を嫌うからですね。
服は意識的なものです。
アダムとイブは、もともと裸だった
アダムとイブが、蛇にそそのかされて、禁断の果実を食べてしまったのは有名な話です。
この話ですが、禁断の果実を食べた直後に、アダムとイブが、はじめに行ったことって覚えていますかね?
はじめてやった行為は、裸である自分に気付き、イチジクの葉で裸を隠したことでしたね。
これが、人間がはじめて自意識を持ったこととして旧約聖書で語られます。
で、このあと、二人は、楽園から追放されてしまいます。
小人に話を戻してみると、小人は楽園の住人なんでしょう。
小人は、禁断の果実を食べるでしょうか。
小人は、追放を望んでますかね?
小人にとって靴屋は蛇?

小人は、意識を嫌いますね。
これは、小人の存在意義に関わる属性です。
嫌わなかったら、小人ではないですね。
小人と意識は、水と油です。
小人の特徴の一つである創造性を考えても、意識とは違いますね。
創造性は、意識化の過程にあるもので、小人がせっせと働くイメージでもあります。
それは、暗いところで人が寝静まったときに始まるような無意識的な仕事です。
ですから、意識のような明るみに出た結果、論理など私たちが「分かった」といったものとは異質なものですね。
それは、いい方にも悪い方にも転びます。
そういう意味では、いい小人だけではなく、悪い小人がいるというのも大事なことです。(→>>小人の基礎知識)
としますと、小人が二度とやってこなくなった意味は、小人が意識を嫌ったからですね。
善意で作った服でしたが、小人にとって、靴屋の夫婦は、アダムとイブをそそのかした蛇のように映ったかもしれません。
小人の創造性を人間の能力にするために

小人が消えても、靴屋が繁盛する意味は、中年が主人公だから?
よくある話の流れでは、小人がいなくなってしまうと、魔法は解けて、元の貧乏へ逆戻り。
「主人公は途方に暮れた」なんていうパターンに展開しそうです。
グリム童話『漁師とその妻』や日本昔話『はなたれ小僧様』のたぐいはこんな話になっています。
ですが、この話はそうはなりません。
小人は消えてしまいますが、靴屋の繁盛は消えません。
これは、小人の創造性が靴屋へと受け継がれたことを意味します。
小人の創造性が受け継がれる理由を精神科医が解説

チネンは、小人の創造性を一過性のものではなく、人間の日常的な仕事に結びつけるには、それなりの努力が必要だといいます。
それは、話に出てくる靴屋のような腰を据えた仕事をもち、欲望の抑えが効いた中年の人格だからなしえた事だというわけです。
つまり、日頃のコツコツとたゆまぬ労働がなければ、小人の創造性も消えてしまうということですね。
日常の実直な行いの積み重ねが、創造の受け皿になるということでしょうね。
まとめ:小人を役立たせるためには日頃の行いが重要です。

全体的にこの話は、波乱の巻き起こる話ではなく、どこか落ち着いた雰囲気や、感情の高ぶりを抑制した感じは、主人公が中年だからというのはあるでしょう。
これが、もし、子供や若者が主人公だったら、小人がいなくなった瞬間、すべては消えてしまうのかもしれません。
じっさい、この『小人の靴屋』では、大金持ちになる話ではなく、世間並みの暮らしに戻ったくらいなんです。
有名な話であるにもかかわらず、意外に、派手さがないんです
まあ、ただ、気になるのは、この解釈が正解だとしたら、子供に聞かせる話なのかなあ?…などと思ってしまいますが、どうでしょうか…。😰
アラン・B・チネン(1995)『大人のための真理童話(上)』(羽田詩津子訳)早川書房.